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(20)キンギョメイワク/2004年2月24日

国安が金魚を飼い始めて数カ月が過ぎた。現在、開発室の隣の会議室は、金魚部屋と化している。つまり、既に、打合せには使えない状況である。観賞用、病気治療用、水作り用の水槽3個までは容認していたが、みるみる間に増えていき、現在、10個の水の入った容器が、5畳半に所狭しと並べられている。
国安は、毎日、金魚の世話に忙しい。素人であるにもかかわらず、次々子引きに成功し、3回の産卵で、2000匹余りの稚魚を孵化させた。何人もの人が里親に名乗りを上げてくださり、3月には引き取られていくことになっているものの、それまでが憂鬱だ。
とにかく、臭う。海鮮丼が大好物の人なら平気だろうが、わたしは回転寿司屋でフライドポテトとカッパ巻きを注文する人である。焼肉屋ではキャベツばかり食べている人である。とにかく生臭いのがダメなのだ。金魚は病気になると特に臭う。プロパンガスと下水を混ぜたような臭いが、階段を伝って2Fにまで立ち昇ってくる。また、湿度も高くなる。雨の降らない松山市で、アマゾンの気分を味わうとは思ってもみなかった。
ただ、臭いと湿度だけなら、まだ、ガマンできない範囲ではない。
困るのは、わたしが一人で静かに落ち着いて企画を考えたり、設計をしたり、絵を描いたり音楽を作ったりという部屋を1Fに確保する予定が、一室を金魚に占拠されたことで、絵に描いたモチに終わってしまったことだ。聴覚が鋭いわたしは、雑音のする場所に四六時中いると、ストレスを溜めこんでしまう。なにせ、子供の頃、中耳炎か何かの治療後に聴覚検査をしたときも、検査途中で医師が検査室に入ってきて「どうしてこの音が聞こえるのか!?」と驚いていたくらい、耳が良い。この耳の良さのために、カラオケも、遊園地も、映画も、音が大きすぎてツライ、受け付けない、というくらい耳が良い。だから、静かな一室を作りたかったのである。それが。
このような状況を「キンギョメイワク」という。ところが、わたしが金魚に名前を付け、写真を撮ったりするものだから、国安は、わたしのメイワクのレベルを誤解している。
年末にデジカメを買ったら、国安が金魚の写真を撮り始めた。「Photoshopで処理して」とデータを持ってくるのだが、処理し始めると、いきおいトーンカーブをいじったりしてしまう。さらに、自分で撮りたくなってしまう。撮影ディレクションは仕事の範疇なので、プロの血が騒ぐのだ。こんなアングルで撮ったら面白いだろうな、と思って実行してしまう自分が、情けない。
金魚に文句を言うわけにもいかない。とくに、「なにィ?」という名前の金魚は、近づくと、「なにィ?」という顔をして振り向くので、二の句を告げなくなる。「ボコちゃん」は、ボコちゃんで、イルカの子供みたいな顔をして「あそぼ、あそぼ」と笑うので、何も言えない。「ニコちゃん」は、森三中の村上嬢ソックリなので、目が合うと噴き出してしまうから、これにも何も言えない。「お嬢様」は、お嬢様ぶっていて、「あら、それがどうしたっていうのかしらね」という感じ。「コイ」はドッシリ構えていて、寄ってはくるが何を言おうと、どこ吹く風。
「この5バカが!!」と思うものの、バカなので、何を言っても、だめ。飼い主の国安にすり寄ってくるのは当然だが、わたしが近づいても即座ににじり寄ってくるところがバカである。人ではなくカメラのファインダにさえ寄ってくる。飼い主が誰かということさえ分かっていないのだ。
なので、飼い主の国安に文句を言うべきところなのだが、こちらも既に「金魚中毒」というビョーキの領域に足を踏み入れているので、何を言っても、だめ。
仕方ないので、長いストレートケーブルと子機付きの電話を購入し、2Fを設計室にするしかあるまい、と考え始めた。なぜ、PROJECT KySS代表のわたしが、部下でもない金魚に部屋を追われなければならないのだろうと思いつつ。
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